ordem(秩序) e(と) progresso(進歩)

 ブラジルの国旗にポルトガル語で書かれた文字がある。ordem e progresso 秩序と進歩。この標語、オギュースト・コントの理念から来ている。社会学者として有名だが彼は人類教の教祖でもある。

 コントに詳しい学者に清水幾太郎がいた。彼が大学での授業でコントの話をした。授業が終わって廊下に出たところ、一人の学生が追いかけてきた。質問らしい。

「先生、先程からコント、コントと言っておられましたが、カントの間違いでは?」

清水先生、慌てず騒がず

「ちょっと違うんです。カントはドイツ人だけどコントはフランス人なんです」


 清水先生、学生時代、共産党からのオルグを受けた。もちろん、戦前なので非合法時代である。また、カトリックの神父からも誘いを受けた。先生が親しくしていた神父さんは学者でもあり、大学に来訪のとき、ドイツ語が出来ると思われていた先生が迎えに行った。(大学受験ドイツ語だった)

 イグナチオ・ロヨラの「霊操」を借りて、瞑想の訓練をしたこともあった。この神父さん、戦後直ぐに箱根で脳溢血で倒れ死んでしまった。

 清水先生、コントの研究家になったのは、このマルクスカトリックの中間点にあるコントに「逃げた」と正直に独白している。戦後、マックス・ウェーバーに逃げた「隠れマルキスト」に似ているかもしれない。

 このコントの理念、メキシコとブラジルに影響を与えた。

 清水先生、ブラジルで人類教団を訪ねた。日本から来た来賓として大歓迎を受けた。礼拝堂に流された音楽は「君が代」だった。日本では清水先生、反戦活動・反基地闘争の先頭に立った。共産党からはトロッキストと後ろ指を指されていたが、日の丸・君が代は拒否していた。

 しかし、ブラジルでは日本代表として、君が代を歌った。